私が、家づくりの相談を受けていると、最初に出てくる言葉の多くは「この家はいくらで建ちますか?」というものです。確かに建築費は大きな要素です。しかし、本当に考えるべきは「本体価格=家の値段」ではなく、その後に続く30年、40年の暮らしにかかる総額です。

国土交通省の調査でも、家を建てた人の不満ワースト1位は「暑い」、2位は「寒い」。この「暑い寒い」を我慢して暮らすことは、光熱費がかさむだけでなく、健康に直結していきます。


本体価格の“見かけの安さ”に惑わされない

たとえば「本体価格 2000万円」という広告を見たとします。実際に契約を進めると、地盤改良、外構、登記費用、エアコンや照明といった設備で+500万円はすぐに積み上がります。気がつけば「2000万円の家」は2500〜2800万円。車でいえば「車体価格だけでカーナビ、ホイールカバーなどの各種オプション、納車にかかる諸経費を考えずに買う」ようなものです。

また「安い」と感じて契約した家が、実は10年ごとに屋根と外壁で数百万円の修繕費を必要とする仕様だった、というケースは珍しくありません。私たちは、久留米でリフォームもしていますので、リフォームの際に、外壁の劣化が早い、夏は暑く、冬は寒い、結果、光熱費もかかるというように、「安く建てたつもりが、高い買い物になった」という声をよく聞きます。


光熱費の差は30年で教育費1人分

高断熱住宅のリビング。冬でも20℃前後を保ち、光熱費を抑えやすい。
施工事例より

特にここ福岡県の久留米のような地域では、夏は湿度が高く蒸し暑い日が続き、冬は内陸ゆえ底冷えする日も多い。近年は異常気象のためか、その傾向はより強くでてきていることを、皆さんも感じられていることかと思います。ここで家の断熱性能が大きな差を生みます。

たとえば延床30坪の住宅で、UA値0.87(最低基準ギリギリ)とUA値0.46(高断熱)の家を比較すると、冷暖房費が月に2万円近く違うこともあります。年間にして20万円。30年住めば600万円。これは子ども一人の大学進学費用に匹敵します。

私自身も現場で職人さんと一緒に作業していると、断熱性能の違いで現場の暑さが全く違うことを何度も体感しています。生活したお施主様の話では、計算上は年間20万円の光熱費差ですが、空気の快適さといった、数字にできない違いの方が大きいと感じたというお話も聞きます。

ちなみに、高熱費の差が出るのは、断熱性能だけではなく、パッシブ設計という簡単に言えば、夏の日射を庇でカットし、冬の日射を取り込むような設計も併せて重要です。このあたりは、土地を見た設計をせず、間取りプラン集から提案する会社や最近ではAIがプランを作る会社だと、無視されて断熱性能が高いせいでかえって温室のようになってしまう家もあります。

お金の差だけではありません。高断熱住宅は冷暖房が効きやすく、部屋ごとの温度差が少ない。冬の朝にリビングが10℃しかなくて「布団から出られない」と震える暮らしと、リビングが20℃前後で「すっと動ける」暮らしでは、生活の質がまるで違います。


維持費の差も“安物買いの銭失い”に

もうひとつ忘れてはならないのが維持費。外壁や屋根の選び方で、30年後の総額は大きく変わります。

たとえば安価なサイディング外壁は10年ごとの塗り替えが必須。30年間で2〜3回のメンテナンスが必要になり、そのたびに100〜150万円。合計300〜400万円。

一方、初期費用はやや高いが、同じサイディングでも耐久性の高いものや、塗り壁を選んだ場合でも、高耐久のものを選ぶと、30年で必要な修繕費はほとんどゼロに近く抑えられます。

これはまさに「靴を買うのと同じ」。安い靴を毎年買い替えるのと、少し高い靴を10年履き続けるのとでは、結果的にどちらが得か。家も全く同じ発想が必要です。


健康と医療費に直結する“家の断熱性能”

さらに大切なのは健康です。ヒートショックで亡くなる方は全国で年間19,000人以上。これは交通事故死の約6倍にあたります。私たちのいる福岡県久留米のように、九州で南の方だと思われる場所でも、冬は、やはり寒いですよね。私たちの地域でも、冬の夜に、暖房していない脱衣室やトイレで急激な温度差にさらされるリスクが高いのです。

高断熱・高気密住宅に住んでいる方からは「子どもが風邪をひきにくくなった」「夜ぐっすり眠れるようになった」といった声をよく聞きます。これは医療費や通院時間の削減につながる“見えないメリット”です。30年単位で考えれば、医療費や薬代に100万円以上の差がつくこともあり得ます。大きな病気になるリスクを考えればお金には換算できない差がでるとも言えます。

焼肉の匂いと部屋干しの臭い、その背景には湿度の壁がある

実は、久留米は福岡県内でも特に降水量が多い場所で、年間約1,983 mm—県内2位の“湿度王国”。春から夏にかけては特に湿気に悩まされやすい地域です。OCN不動産+1

たとえば週末に焼肉をしたあと、「翌朝になっても匂いが残っている」と感じたことはありませんか?これは主に換気不足が原因です。

一方で、部屋干しのときに発生する独特の臭いは、モラクセラ菌という雑菌が湿気を好んで繁殖することによるもので、こちらは除湿不足が原因。

つまり「焼肉の匂い」と「部屋干しの臭い」は原因が別ですが、どちらも共通しているのは「湿度・換気の設計がうまくいっていない家ほど、生活のストレスが積み重なりやすい」ということです。


湿度89%!?夏はまるでサウナみたいな日にする湿度対策とは

久留米市では、夏の“蒸し暑さを感じる日”の割合が、6月は21%、7月には89%へと急増します。特に8月上旬は99%に達し、ほぼ毎日が蒸し暑い状態になります。Weather Spark

久留米市における夏季の湿度快適性レベル(縦軸:蒸し暑さの確率)

こんな中、気密性が低かったり、気密性が高くても、外気を直接取り入れる3種換気を使っていると、外の湿気が室内に入ってきて、エアコンで室温を下げても、湿度が下がらない状態になります。

断熱性能だけでなく、気密性や、換気設計を考え、「湿度を家に入れない工夫」を取り入れるかで暮らしの快適さは劇的に変わります。


九州も寒い。久留米の平均最低気温は約1 ℃

リフォーム関係でお客様のヒアリングをしていると、「冬でも家の中でダウンジャケット来てるほど寒い」、「底冷えがする」という話をよく聞きます。

よく、他県に行くと言われます。福岡は九州だから暖かいんじゃないの?私たち久留米人はそんなことないともちろん言いますよね。

九州の家は断熱が弱く、最近の高断熱住宅に住んでいない方は、家の中で寒さを我慢しながら生活されている方がほとんどです。

久留米の冬は晴れも多いそうですが、晴れた日の日に当たっていれば確かに、寒さも和らぎます。しかし、陽が沈んだらどうでしょう。断熱がされていない昔の家、たとえばおじいちゃん、おばあちゃんの家がとても寒いという話はよく伺いますがいかがですか。マンションに住んでいるお孫さんに、「冬はじいじの家に行きたくない」と言われた、お話されたお客様もいらっしゃいました。

久留米の冬季の日平均最低気温はおおよそ1 ℃、「暖房を入れているのに足元から底冷えがする」状態になる温度です。Weather Spark

久留米市における冬季の平均最高気温および平均最低気温

こういう朝に窓に近寄るとヒヤーッとするものが体に感じませんか?窓もしっかりと結露していて、サッシもとても冷たい。

しかし、晃榮住宅で建てている高性能住宅ですと、そういった感覚がほぼ感じないとお客様から言われます。家じゅうが暖かく、トイレも、お風呂も寒くありません。

家の中にいても白い息が見える家とこのような家じゅう暖かい家ですと、とても快適です。そして、風邪などの病気のリスクも当然変わってきます。


暮らしの“豊かさ”は、当たり前の心地よさから

改めて振り返ってみてください。

  • 夏、湿度99%の日に部屋に入ったときの空気の重さ
  • 部屋干しの洗濯物の匂い
  • 朝の焼肉の匂いが布団にしみついたように感じた瞬間
  • 冬、窓に近づいたときに感じるヒヤーっと体に感じる「冷たい何か」
  • 家の中でも、ダウンコートと厚手の靴下が手放せない

こうした、ほんの小さな不快感が日々の暮らしの質を少しずつ下げていきます。

逆に、温度差が少なく湿度がコントロールされ、「あれ?空気が軽いかな」と感じられる家は、住まいを“居心地のいい家”に変える力があります。


まとめ:気候に負けない住宅の性能設計は、家計と健康を守る

  • 家を買うときは、本体価格だけに惑わされない
  • 光熱費やメンテナンスコストまでの総額を考えた家づくりをする
  • 久留米という「湿気フルマックス&冬寒冷」の地域性を理解する
  • 地域にあった「湿度・温度・エネルギー」を抑える設計をする
  • 生活シーンで「匂い・寒さ・空気の重さ」が減っていく体験を積み上げる

これが、建築費だけでなく暮らしのトータル価値を上げる家づくりということになります。

「気候に負けない設計」は、見積書には載らないけど、長い目で見てコストを削減する体と財布にやさしい最強の投資ではないかと思います。

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