耐震等級3は本当に必要?

― 熊本地震から建築士が学んだ家づくりの答え ―

「もし今、大きな地震が来たら——この家は本当に大丈夫だろうか。」

                          出典:気象庁|平成28年(2016年)熊本地震 

テレビやスマートフォンから流れてくる地震速報を見るたびに、そんな不安が頭をよぎる方は少なくないと思います。最近も熊本で地震が発生し、青森県では震度6強を観測しました。以前であれば「遠い地域の出来事」と受け止めていたような地震でも、今はどこか他人事ではない感覚を持つ方が増えているのではないでしょうか。

私たちが家づくりを行っている福岡県久留米市でも、福岡西方沖地震や熊本地震の際に震度5強を観測しました。九州はこれまで「地震が比較的少ない地域」と言われてきましたが、日本列島は四方をプレートに囲まれた地震大国です。「九州だから安心」「福岡だから大丈夫」と言い切れる時代では、もはやなくなってきていると感じます。

さらに近年は、南海トラフ巨大地震に関する国の被害想定や報道を目にする機会も増えました。南海トラフ臨時情報が実際に発表されたことにより、「いつか来ると言われてきた地震」が、現実として向き合うべきリスクとして感じられるようになった方も多いのではないでしょうか。

こうした背景から、注文住宅の打ち合わせの中でも「地震が心配で…」「耐震等級って、どこまで必要なんでしょうか?」という相談を受けることが、ここ数年で明らかに増えています。

熊本地震のあと、被害を受けた住宅を実際に見て回る中で、建築士として強く心に残ったことがあります。それは、同じように見える家でも、地震後の結果にははっきりと差が出る という事実でした。

倒壊した家、半壊した家、損傷はあるものの住み続けられた家、ほとんど被害を受けなかった家。同じ地域、同じような築年数、同じような外観でも、その後の運命は大きく分かれていたのです。

このコラムでは、「耐震等級3は本当に必要なのか?」という問いに対して、不安を煽るのではなく、熊本地震の実例と現場での経験をもとに、後悔しないための考え方を整理してお伝えしていきます。


なぜ今、地震への不安が強くなっているのか

「最近、地震が増えている気がする」と感じている方も多いかもしれません。実際の発生回数の増減については専門的な分析が必要ですが、少なくとも“体感としての不安”が大きくなっているのは確かだと思います。

その理由の一つが、地震情報が瞬時に全国へ届くようになったことです。スマートフォンの緊急速報、テレビの速報テロップ、SNSでの映像拡散などにより、地震は「遠くで起きている出来事」ではなく、「次は自分の地域かもしれない出来事」として意識されやすくなっています。

また、南海トラフ巨大地震についても、これまでは「専門家の想定」という印象が強かったものが、具体的な被害想定や臨時情報の発表を通じて、「現実的に備えるべきリスク」として受け止められるようになりました。

福岡や久留米は震源域ではありませんが、巨大地震が発生した場合、強い揺れが広範囲に及ぶ可能性があります。それだけでなく、物流の停止、電気・水道といったライフラインの寸断など、住宅そのものだけでなく暮らし全体に影響が及ぶことも考えられます。

こうした状況を踏まえると、地震に不安を感じること自体は、決して過剰でも特別でもなく、ごく自然な感覚だと言えるでしょう。


そもそも「耐震等級」とは何なのか

ここで一度、「耐震等級」という言葉について整理しておきたいと思います。この言葉は、家づくりを始めて初めて知ったという方も多いのではないでしょうか。

耐震等級とは、住宅の地震に対する強さを示す指標で、国の制度である「住宅性能表示制度(品確法)」の中で定められています。簡単に言えば、家がどれくらいの地震に耐えられるかを、段階的に示したもの です。

耐震等級は、1・2・3の三段階に分かれています。

耐震等級1は、建築基準法で定められた最低限の基準で、数百年に一度程度発生すると想定される大地震で倒壊・崩壊しないことを目的としています。つまり、法律上「最低限守らなければならない安全ライン」です。

耐震等級2は、その1.25倍の地震力に耐えられる性能を持ち、学校や病院など、多くの人が利用する建物に採用されることが多い基準です。

耐震等級3は、耐震等級1の1.5倍の地震力に耐えられる性能で、消防署や警察署といった防災拠点と同等の耐震レベルとされています。

熊本地震を教訓に。「耐震等級3のススメ」監修:京都大学 生存圏研究所教授 五十田 博 より

ここで大切なのは、耐震等級1でも違法ではなく、最低限の命は守る設計になっている という点です。ただし、それは「一度の大地震で倒壊しない」ことを前提にした基準であり、繰り返しの揺れや、その後も住み続けられるかどうかまでは十分に考慮されていません。


「倒れない家」と「住み続けられる家」は違う

熊本地震で多くの方が直面したのが、この現実でした。

建物は倒壊しなかったものの、壁や柱、基礎に大きな損傷が生じ、結果的に住み続けることができず、解体や大規模修繕を余儀なくされた住宅が数多くありました。

命は守られても、
・長期間の仮住まいが必要になる
・多額の修繕費がかかる
・生活再建に大きな精神的負担がかかる

こうした状況に置かれた方も少なくありませんでした。

「倒壊しない=安心」ではない。
この視点は、耐震性能を考える上で、非常に重要だと感じています。

家づくりを検討していると、「万が一のために、どこまで備えるべきなのか」という判断に必ず直面します。地震はいつ起きるか分からず、起きない可能性もあります。しかし一度起きてしまえば、その影響は家族の暮らしを長期間左右します。

だからこそ耐震性能の話は、「怖いから強くする」という感情論だけでなく、「自分たちはどんな暮らしを守りたいのか」という視点で考える必要があります。地震後も今の家で生活を続けたいのか、早く日常を取り戻したいのか。その答えによって、選ぶべき性能の考え方も変わってきます。

耐震等級を考えることは、単に建物の強さを決めることではなく、地震後の暮らし方を選ぶ行為 でもあるのです。

熊本地震で見えた住宅性能の差と、耐震等級3という選択

熊本地震の大きな特徴は、前震・本震・余震が短期間に何度も繰り返されたことでした。この「繰り返しの強い揺れ」は、住宅にとって非常に過酷な条件でした。

現地で被害を受けた住宅を見て回る中で印象的だったのは、築年数が浅い家でも大きな被害を受けているケースが少なくなかったことです。「新しい家だから安心」という考えが、必ずしも当てはまらない現実を突きつけられました。

一方で、同じ地域に建っていながら、ほとんど被害を受けず、そのまま住み続けられている住宅も確かに存在していました。この差は、偶然ではありません。


見た目では分からない「構造」の違い

地震後の住宅を見て強く感じたのは、耐震性能は完成後の見た目では判断できない ということです。

柱や梁の配置、耐力壁の量とバランス、接合部の金物の種類、基礎と建物のつながり方など、普段の生活では見えない部分が、地震時の建物の挙動を大きく左右します。

特に、耐震等級3を正式に取得し、構造計算(許容応力度計算)を行った住宅は、無被害なところが、大半で、被害がおきたところも、軽微な傾向が見られました。これは「たまたま強かった」のではなく、設計段階で地震力を想定し、建物全体の力の流れを計算しているかどうかの差だと感じます。


耐震等級は1〜3。どれにしたらいい?

多くの方が、「耐震性能が高い方が安心」ということは理解されています。しかし一方で、性能を上げるほどコストがかかるのも事実です。

そのため、

・理想は耐震等級3
・でも、予算とのバランスを考えると耐震等級2でも良いのでは

と、悩まれる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、当社では、高性能住宅の依頼を頂いている場合、耐震等級3を取得しています。

理由は、大きく2つあります。

1つ目は、震災での被害が耐震等級3では少なかったことのデータがあることです。

以下は、熊本地震での木造住宅で、建物が建った時期別の損傷のデータです。

熊本地震を教訓に。「耐震等級3のススメ」監修:京都大学 生存圏研究所教授 五十田 博 より

・縦軸が、建物が建った時期

・横軸が損傷の具合です。

耐震等級3となると、無被害の割合が非常に高くなっていることがわかります。

この調査にあったた京都大学の教授もこの耐震等級3をススメています。

耐震等級3は費用が大幅に増えるのか?

耐震等級3の費用面が気になるところですが、弊社がこれまでに建ててきた家ですと、ほぼ耐震等級3に近い家づくりをしてきていますので、構造計算費用と少し木材が上がる程度ですみます。

耐震等級3を取得すると、地震保険が半額ほどになるメリットがあります。

住宅ローン期間の35年分の地震保険のメリットが、3000万円の保険で50万程度あります。耐震等級3を取る方が長い目で見てお得です。

たまに、地震保険に入っているのだから、地震で壊れたら、新しい家に建て替えられるという誤った認識を持たれている方がいらっしゃいます。

しかし、地震保険では再建築するほどの費用はでないことにもご留意ください。

家は大切な資産。ご家族の命を守る場所でもあります。

耐震等級3レベルで家を建てることは、最近では必須事項と考えています。


耐震性能は「地震後の暮らし」への備え

耐震等級3を選択すると、初期費用は確かに上がります。しかし、地震後にかかる修繕費、仮住まいの家賃、生活再建に伴う負担、そして精神的なストレスを考えると、耐震性能は地震後の暮らしを守るための保険 とも言えるのではないでしょうか。

「耐震等級3相当」という言葉に注意

家づくりの打ち合わせの中で、「耐震等級3相当」という表現を目にすることがあります。しかし、これは正式な住宅性能表示ではありません。第三者機関による評価を受けているかどうか、構造計算が行われているかどうかは、必ず確認してほしいポイントです。

合わせて覚えておいてほしいのが、耐震等級3もいろいろな取得の仕方がありますが、もっとも安全性が高いものが、「許容応力度計算の耐震等級3」です。

なぜ許容応力度計算は、安全性がもっとも高いのか。理由はシンプルで、建物にかかる力を、部材一本一本レベルで数値的に検証しているからです。

実際に弊社の建築した建物の構造計算書が下の写真です。

弊社建築の注文住宅での、実際の構造計算書

いかに、安全性について、詳細な計算が行われるかということが、感じていただけるかと思います。

一方、「耐震等級3相当」という表現をされているところでは、

  • 許容応力度計算をしていない
  • 第三者機関の評価を受けていない
  • 設計者や会社独自の判断に留まっている

といったケースが少なくはありません。

家は、完成してからでは中身が見えません。
だからこそ、

・第三者機関の住宅性能評価を取得しているか

・耐震等級3は「許容応力度計算」によるものか

・構造計算書をきちんと説明してもらえるか

この3点は、ぜひ打ち合わせの中で確認してほしいポイントです。

耐震等級3は「数字」だけを見るのではなく、
どの計算方法で、どこまで検証されているかが本当の安心につながります。




建築士として伝えたいこと

耐震等級3は、必ずしも全ての人にとって唯一の正解ではありません。しかし、地震後の選択肢を増やしてくれる性能であることは確かです。

大切なのは、
・地震リスクを正しく知ること
・耐震等級それぞれの意味を理解すること
・その上で、納得して選ぶこと

だと考えています。


まとめ|不安がある今だからこそ、知った上で選んでほしい

地震への不安は、誰にとっても現実的なものです。熊本地震は、住宅性能の差がその後の暮らしに大きく影響することを、私たちに教えてくれました。

耐震等級には1〜3があり、それぞれに意味があります。耐震等級3は地震後の暮らしまで見据えた備えです。

私たちは、福岡県久留米市を中心に注文住宅を手がけていますが、性能を押しつけるのではなく、納得して選べる家づくり を何より大切にしています。


「本当は耐震等級3が安心だと思うけれど、そこまで必要なのか分からない」という声を多く聞きます。この迷いは、とても自然なものです。

だからこそ私たちは、数字や制度、熊本地震で何が起きたのか、どんな家が残り、どんな家が使えなくなったのかを丁寧にお伝えするようにしています。

「知らずに選ぶ」のではなく、「理解した上で選ぶ」。
それが、地震と向き合う家づくりの第一歩だと思います。                    
後悔しない判断の材料になれば幸いです。

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